お手軽にエントリーできる堤防釣りですが、
危険な魚が釣れることもあります。
どれも特徴的な魚なので一度見ておけば見分けがつくはず。
工藤孝浩さんに解説してもらいました(この記事はその②です)。
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【咬毒】
咬毒をもつ生物は、牙の毒腺や唾液に毒をもち、咬みついて毒を注入する。
海の咬毒生物では爬虫類のウミヘビ類がよく知られるが、
釣れる可能性はほとんどない。魚類のウミヘビ類やウツボ類は咬まれると危険だが、咬毒はもたない。
釣れる可能性があって咬毒をもつ生物ではタコ類が筆頭である、
ここに紹介する猛毒のヒョウモンダコのほか、マダコやサメハダテナガダコも咬毒をもつ。
ヒョウモンダコ(マダコ科ヒョウモンダコ属)
唾液にフグ毒をもち、咬まれると危険なうえに食しても危ない。
体長約10cmでその名のとおりヒョウ柄と輝青色のリングに彩られる。
泳ぎは不得手で墨をもたず、吸盤も小さく弱々しいが、毒をもっているせいか海中では逃げ隠れせず、よく目立つ。
熱帯性種と思われているが、南日本で普通に繁殖する温帯種である。
本種による死亡例はないが、海外では近縁種による死亡例がある。
【フグ毒】
フグ類が猛毒をもつことはあまりに有名。フグの種類や部位で毒力は大きく異なり、
厚生労働省は食用可能なフグの種類と部位を定めている。
毒成分はテトロドトキシンで、骨格筋や神経の膜に作用し神経伝達を遮断する神経毒である。
熱に安定で水にほとんど溶けない。
中毒症状は食後1~2時間で現れ、口唇や指先のしびれ、
運動・知覚麻痺、言語障害が生じ、血圧降下や意識消失を経て重篤な場合は死に至る。
全国で年間に約30件の中毒が発生し、数名が死亡している。多くは釣り人や素人による家庭料理によるものである。
キタマクラ(フグ科キタマクラ属)
食べると北向きの枕に寝かされるというのがその名の由来で、
フグ毒をもち食べられない。吻がやや突き出た小型のフグで、
体側に2本の暗色縦帯をもつことが特徴。
夏~秋の繁殖期には、オスの腹部に青い虫食い状の斑紋が浮き出て美しい。
南日本の沿岸浅所の岩礁や藻場にすむ。全長15cmになる。
クサフグ(フグ科トラフグ属)
陸釣りの定番外道の小型のフグ。一般的に食べられないと思われているが、
フグ処理の有資格者がさばいた筋肉の食用は厚労省が認めている。
肝臓、卵巣、精巣、腸と皮の毒は強く食べられない。
咬毒はもたないが咬む力が強いので、釣れた個体を扱う際には咬まれないよう注意すること。全長15cmになる。
【シガテラ毒】
主に熱帯・亜熱帯地域でプランクトンがつくりだす毒素を、
食物連鎖を通じて大型の肉食魚が体内に蓄積して毒化する。
毒成分はシガトキシンとその類縁化合物。
下痢・おう吐・腹痛などの消化器系症状、徐脈・血圧低下などの循環器系症状、
温度感覚異常(ドライアイス・センセーション)・関節痛・麻痺などの神経系症状が数日~1ヶ月以上続く。
400種以上の魚が毒化する可能性があり、その多くはフエダイ類やハタ類など南方系魚種である。
日本では主に沖縄県で年間10~30件の中毒が発生しているが死亡例はない。
ヒラマサやカンパチなど人気の釣りものの中毒があり、
近年では九州や本州でイシガキダイを原因とする中毒が相次いで発生し問題となっている。
イシガキダイ(イシダイ科イシダイ属)
石もの釣りのターゲットとして古くから人気の釣りもの。
体に褐色の斑点が密に分布することがその名の由来だが、
成長とともに斑紋は薄れ、雄の老成魚では口の周りが白くなりクチジロと呼ばれる。
生態や習性はイシダイに似るがやや南方系で、琉球列島や小笠原諸島には本種のみが分布する。
南方域の個体はもちろん、本州周辺の個体でも大型になるほど毒化のリスクが高まる。
【パリトキシン様毒】
これまで少なくとも44件の中毒記録があり、患者総数129名のうち8名が死亡している。
主症状は横紋筋の融解による激しい筋肉痛で、
しばしば黒褐色の排尿(ミオグロビン尿症)を伴う。
呼吸困難、歩行困難、麻痺、けいれんなどを呈することもあり、重篤例では死に至る。
毒成分はパリトキシン(フグ毒の70倍もの猛毒)によく似た物質と考えられているが構造解明には至っておらず、
水溶性で加熱によって毒性は失われない。
アオブダイ(ブダイ科アオブダイ属)
日本のパリトキシン様毒中毒例のうち65%を占める原因魚で、
長崎・高知・三重県などでの発生が多く6名の死者を出している。
喫食部位が分かっている中毒例では、筋肉と肝臓がほとんどである。
濃青緑色を呈する大きな鱗に覆われ、成長に伴って頭部がコブのように突き出す。全長65cmに達する。